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今の「 W3C 勧告準拠の HTML 4.01 (又は XHTML 1.0 ) Strict+CSS のサイト」の状況は、かつてのパソ通時代の16色 CG 界に近いものがある……そんな風に思う。「16色 CG の時代とフルカラー CG の時代では絵の上手さが全く違う」――この事実が、これからのスタイルシートの普及の鍵を握っていると、自分は思う。
高性能なツールやマシンが安価に手に入る今では想像もできないかもしれないが、昔のコンピュータは本当に非力で、「画像処理」といってもせいぜい16色を扱うのが限界だった。画像サイズも 640x400 が標準。ネットワーク環境だって全然低速。――日本の「 CG 」が発展してきたのは、こんな土壌の上でだった。
当時、コンピュータは単なる事務機械、あるいは一部のコンピュータマニアのおもちゃに過ぎなかった。絵を描くためのプログラムもあるにはあったが、前述のようにマシン環境自体がとてつもなく非力で、とても「紙に絵を描くのと同じように」はいかなかった。
そんな特殊な環境での「 CG 作成」には、純粋な絵心とはまた別に、独特の「テクニック」が必要とされた。少ない色数で多くの色を擬似的に再現する「タイリング」、主線のジャギーを丁寧に取り除く「アンチエイリアス」……まさに「職人芸」と呼ぶのが相応しいような技術が、この時代には一般的だった。
多くの「絵描き」の目には、当時の CG 環境は魅力的には映らなかった。しかも、パソコンを使うには、現在で「中級者」と呼ばれるくらいのソフトウェア・ハードウェアの知識が必要不可欠だった。そのため、コンピュータに疎い「絵描き」は CG 表現をハナから諦めてしまい、その結果、 CG を発表していたのはその多くが「コンピュータ使い」であった――誤解を恐れずに言ってしまえば、当時の「 CG 作家」の主流は「絵描き」ではなく「絵の上手いパソコンユーザー」だったと言える。
※もちろん、その頃から「絵描き」として CG 界に足を踏み入れ、現在に至っている人もいる――たれめパラダイスのゆういち氏などはその代表格だ。このように当時からも、「絵描きの CG 作家」は存在していた。ただ、そういう人は絶対数が少なく、あるいはその存在を広く知られてはおらず、多くのアマチュア「 CG 作家」が前述の通りであったことは否めないだろう。
16色環境の CG 技術の発展の成果は、当時のアダルトゲームを見ればよくわかるだろう。使い勝手のよいツールや、作業効率のよい Windows 環境が普及してきたこと、ユーザーの目が肥えてきたことなどから、当時の CG は16色とはいえ現在のフルカラー CG に劣らないクオリティを持っていた。
ツールの充実は確かに CG の質の向上の要因の一つだった。だが、それ以上に大きかったのが、「絵描きが絵を描くようになった」ということだろう。
Windows 、特に Windows3.1 〜95の登場は大きかった。今までコンピュータの知識がなければ何もできなかったのが、何も知らなくても使えるようになったのだ。これにより、今までは「技術者向け」という感の強かったパソコンが、広く一般に普及するようになった。――そうして増えた新しいユーザー層の中には当然、絵を描くことを主な目的とする人々も含まれていた。今まで「知識の壁」で CG 表現を諦めていたイラスト系の人材も、 CG に気軽に手を出せるようになったのである。
※ Mac 環境ではもう少し前からまともな「お絵描き環境」が揃っていた、というのは事実である。しかし当時の Mac は非常に高価で、そう簡単に個人が導入できるシロモノではなかった。そのため、多くのアマチュア絵描きは、比較的安価な PC-98 シリーズや DOS/V 機に流れざるを得なかった。
その後の「 CG 」は、言うに及ばないだろう。 CG 作家の主流はかつての16色時代の、単なる「絵の上手いパソコンユーザー」から、「パソコンが使える絵描き」へ移り変わった。フルカラー時代になって、 CG は「絵の上手いパソコンユーザーが描く『絵』」から「絵描きが描く『絵』」になったのだ。
前段の内容は、16色環境で活動されていた CG 作家諸氏を否定するためのものではない。重要なのは、それまでイラストレーション的に評価の対象になりにくかった「 CG 」が、その道(イラスト)のプロが多数参加したことでイメージが格段に良くなった、という CG 界の経緯だ。
今現在、スタイルシートを利用している人の多くは技術資料や読み物など、テキスト情報を公開する事をメインに活動されている人達だ。これは、前述の「16色時代の CG 」と、ある意味で非常に似ていると思う。
今、一般に、スタイルシートはヘボいものとしか受けとられていない。これはスタイルシートによる高度なデザインの実例が知られていないからに他ならないだろう。
今の CSS 推進派の多く(自分も含めて……)は、高度なスタイル表現ができる可能性を秘めた「スタイルシート」という技術があるにもかかわらず、それを使うのに十分なセンスを持ち合わせておらず、せっかくのスタイルシートを活かしきれていないと言っていい。スタイルシート利用の指標・目標となるべき高度なデザインが一般に知られていない――平凡なデザインしか知られていないから、「所詮スタイルシートでは大したことはできない」という誤解を持たれているのだ。
※スタイルシートもトリッキーな使い方は可能であるが、その多くは「スタイルのために元の文書を改編する」事を迫る。それは HTML ( XML )の理念に反した使い方であり、 CSS 勧告中でも「そういう使い方は望ましくない」と明示されている。もちろん、スタイルシートの存在は常に元の HTML 文書に対し「従」でなければならないが、その主従関係を壊さない範囲でも工夫次第で「良いデザイン」は実現できる。
日本の CG 界を今のクオリティにまで押し上げたのは、果敢にもコンピュータでのイラスト表現に挑戦した「絵描き達」――イラストのプロフェッショナル達に他ならず、彼らが実際に CG を発表して「 CG はこんなに凄いことができるんだ」と CG の可能性を周囲に知らしめたからこそ、他のイラストレーター達も CG 表現を行うようになり、 CG は発展を遂げた……とは考えられないだろうか。そしてスタイルシートにもこのように、「指標」となれる実例が必要なのではないだろうか。
人は理念だけでは動かない。そこに思わず動きたくなるような「おいしいもの」がなければ駄目だ。スタイルシートには実際「おいしい」ものがあるのだが、その「おいしさ」を十分に示す実例が知られていないため、依然としてスタイルシートでできるデザインはショボいという誤解を持たれ、ショボいことしかできないなら使う価値がないと思われている。
スタイルシートの普及を妨げているのは、実装の酷いブラウザでも頭の古いデザイナーでもなく、案外、スタイルシートの「可能性」を示すことができていない CSS 推進派にも問題があるのではないだろうか? ……という結論は本末転倒だろうか。
……まぁ何にしても、 HTML 4.01Strict+CSS のサイトが軒並みヘボいデザインしかないことがスタイルシートを「魅力ないもの」と思わせてしまっているのは事実だ。デザインのプロがスタイルシートを使うようになれば、一般への認知ももっと広まるのではないか…… CG の歴史とスタイルシートの現状とを見比べていると、そんな風に思えてくるのだが。
※ 16 色時代の CG 作家さん達を否定するつもりは全くありません(現状だって似たようなものだし……)。ご気分を害されましたら、私の表現の稚拙さを慎んでお詫び申し上げます。