カトキ立ちの最適角

部屋に入ったとき、ディスプレイの上に飾っていたガンダムが外からの光でシルエット状に見えた。その瞬間、僕は戦慄した。……みんな同じ角度で脚開いてるよ……

カトキ立ちとは?

カトキ立ち。拳を軽く握り、脚を開き力強く大地を踏みしめ、堂々と胸を張って立つポーズ。大河原邦男の描く設定画のメカが脚を閉じてすっくと立っている(俗に「クニオ立ち」「ガワラ立ち」と呼ばれるようだ)のに対し、カトキハジメの描く設定画のメカがほぼ例外なくこのポーズを取っているが故に、そう呼ばれる立ち方である(足の正面と側面を同時に描けるからこのポーズになっている、という話もある)。バーチャロンのテムジンあたりを見てもらえば、どんなものかはすぐわかるはずだ。下手にポーズを取らせるよりも格好良く見え、しかもポーズを取らせるより場所を取らず(そりゃ、突っ立ってるだけだからなあ)、それゆえに猫も杓子もカトキ立ち。デモンベインもカトキ立ち。エロゲヒロインもカトキ立ち

カトキ立ちでないメカにカトキ立ちをさせると(あるいは、カトキ立ちのメカにカトキ立ち以外の立ち方をさせると)どう見えるかについては、糞ボルト氏による数々のイラストが良い資料である。GUNGAL FIXなど、あのガンガルが思わず欲しくなってきてしまうほどであるから不思議だ。

そんなカトキ立ちであるが、「大股開き」という印象が強いにもかかわらず、実はただただ脚を大きく開けばいいというものではない。その辺はカトキハジメ本人も自覚しているようで、HGUC開発時のGP03S画稿ではOVA発表当時のGP03Sよりも開き方がおとなしいのはツッコんではいけない所かもしれない。では、どのくらい開くのが最適なのか? というか、僕はどのくらいの角度で脚を開いているのが好きなのだろうか? 無意識のうちにウチのガンダム達に皆似たような角度で脚を開かせていたのに気づき戦慄した僕は、そこンとこを検証してみることにした次第である。

我が家のガンダムを調べてみる

調査に当たって、計測器具を用意してみた。小学校の時に買った分度器に、先日買った弁当の未使用の割り箸を一本貼り付けたものである。これをガンダムの一方の脚に沿わせ、もう一本の割り箸をもう片方の脚に沿わせれば、脚の開きを容易に測定できるというスグレモノである。

  1. まずはPG 1/60 ガンダム。一応、今手元にある物の中では一番の古株(買ったのは2年ほど前だったか?)である。つい先日行った偽Ver.ka化改造のせいで人相が変わってしまっているが気にしてはいけない。気になる計測結果は37°だった。
  2. 次はMG 1/100 Ver.ka計測結果は35°
  3. GFF RX-78GP04G。足首の可動が狭いせいで微妙に接地が悪いのが悲しい。計測結果は37°
  4. GFF クロスボーンガンダムX-1。漫画版のデザインが好きなので頭のパトレイバーアンテナは切除してある。計測結果は35°
  5. GFF Ζ plus A1改造の結果そーとー大股開きにできるようになってるのだが、結局このくらいの角度で落ち着いている。計測結果は37°
  6. GFF バーザム。これも股関節部分を加工してあるが、こっちはこれが限界(というか、このくらいでイイやと思って削るのをやめた)。計測結果は37°
  7. おまけで、GFF Ex-S。これは浮いているのでカトキ「立ち」ではないが。計測結果は40°

以上、7体。平均は36.8°(約37°)だった。そうか、僕は37°萌えだったのか! ………な、なんだってー?!

中華キャノンで検証してみる

僕は37°萌えだった……あんまりといえばあんまりな結論なので、本当にそうなのかをアオシマの中華キャノンで実験してみることにした。これでもし37°に萌えるようなら真性だろう。

  1. まずは直立(開き0°)から。うーん……なんか情けない。
  2. 30°。……ン?
  3. 37°。ウホッ! いい角度……
  4. 40°。ちょっとだらしなくなってきた気がする。
  5. 60°。だらしない。
  6. 70°。やりすぎです。

……37°で萌えてしまった……だめだ、末期だ……この事実は覆せないのか……

法則性を見いだしてみる

37°萌えというイタすぎなレッテルを自ら作ってしまったことに脱力しながら、しかし何か法則性は無いのだろうかと思いながらなんとなしに画像をいじっていて……両足首と両足首から脚に沿って延長した線が交差する点の3点でできる二等辺三角形と、正中線と接地面の交点と両肩先端の3点でできる二等辺三角形を描いてみた。……はッ!! 諸君……俺達は大変な思い違いをしていたようだ。これを見てみろ! この二つの三角形は相似形になっているじゃあないかッ!!! な、なん(以下略)

早速、他の写真についても調べてみた。すると! クロスボーンガンダムもバーザムもEx-Sも、みな二つの三角形が相似になっているではないか!(かなり適当に描いたので、多少歪んではいるが) そしてデモンベイン立体化計画の中にあった正面図も……やっぱり相似形! それに対して、カッコ悪く見えた方の写真にはそういう特徴がみられなかった。(中華キャノンの開脚0°と70°にも同様の補助線を引いてみたが、その差は明らかだ) なんと、こんなところに法則性があったとは……

なるほど、これなら、肩幅のやたら広いEx-Sだけが平均よりも脚を大きく開いていたのにも説明が付く。理屈っぽく分析してみるなら、二つの三角形が相似――つまり肩から接地面への線と足首から正中線への線が平行ならば、いかにも両肩から身体にかかる荷重をきっちり受け止めて大地を踏みしめているように見え、それが力強さを感じさせる……ということなのではなかろうか。つまり! 重要だったのは角度ではなく、バランスだったんだよッ!!

設定画での検証例も紹介しておこう。以下は、GP03Sの新旧二つの設定画において、二つの三角形を描き、上方の三角形を上下反転して下方の三角形に重ね合わせてみたものだ。OVA当時の設定画:二つの三角形は大きくズレている。HGUC開発時の画稿:二つの三角形は相似形に近い。

ちなみに、一般的な「リアルタイプ」の体型の場合、この時の足の開き幅は肩幅にほぼ等しくなる。いわゆる「休め」のポーズと同じだ。小難しいことを抜きにすれば、カトキ立ちをかっこよくキメたければとりあえず肩幅に足を開いとけという風に結論づけられるだろう。

大河原邦男のイラストでも足の開き幅は肩幅と同じだ、という指摘があったので、補足しておく。先のGP03Sの設定画は消失点が画面の左外側にあるパース画だが、大河原氏のイラストは消失点を画面の上に取ったパース画なので、画像の上で縦に線を引いてまっすぐだからといって足の開き幅と肩幅が同じだとは言えない。実際に図でみれば明らかだろう。以下は、某所で「検証」として描かれていた単純な長方形と、パースを考慮に入れた台形、ならびに、前述の写真で使用した二つの三角形を、プロトタイプガンダムの設定画に重ねたものだ。単純に描いた長方形では線が肩の先端と足の中心を通っているように見えるが、パースを考慮した台形の線は足の中心を大きく外れている。また、「カトキ立ち」の角度を示す脚側の三角形は正中線を通る頂点が画面外にまではみ出しており、開きの角度が極めて小さいことがわかる。

大河原氏のイラストを用いた検証例を見るとわかるように、「カトキ立ち」に関しての検証ではパースのことを考慮しなければならない。この点には注意しておきたいところだ。

まとめ

カトキ立ちの脚の開き方において、「最適角」と呼べる絶対的な角度は存在しないが、最適なバランスとなる角度は存在する。仮にモデルをガンダムSEEDの300円キットとほぼ同じ仕様(関節が両肩と股間にしかない)として考えれば、肩幅をx、肩の頂点の高さから股関節軸までをy、股関節軸から足の先までをz、脚を開く角度を2θ(片方の脚につきθ)とおくと、これらの関係は (x/sinθ)=(2y/cosθ)+z (x/2sinθ)=(y/cosθ)+z である(途中の式)。

また、掲示板におけるよっしー氏の言及通りに「肩幅=足の開き幅」と単純に仮定するなら、 (x/2)/z = sinθ, x/2z = sinθθ = Sin^-1(x/2z) の式が成り立ち、もっと簡単に計算できる。

今回は僕の手元の立体物といくつかのオフィシャル設定画でのみの調査だったが、機会があれば他の人の手元の「カトキ立ちガンダム」達についても調査をしてみたい所である。必ずや、この理論を裏付けるデータを得ることができるであろう(根拠のない断定)。

カトキ立ちの脚の開き方は、気分のみで決まるのではなく、実はロジックに基づいていた(かもしれない)。こうしてこの世にまた一つ、新たなトリビアが誕生した……のか?

ここに書いた情報を鵜呑みにして損害を被った場合、当方は一切知ったこっちゃありません。