2003年の夏のある日のこと。発表直後に話題になって、裏の樹脂パーツが接着不良で回収されたりした、カトキハジメデザインの ELECOM M-MAPP1KHSV を買いました(色はうちのノーパソに合わせました)。散々歩いてやっと見つけたときは感無量でしたが、精算を済ませたらもう後悔に変わってたり、変わってなかったり。
マウスの数は足りてるし、どれも壊れてなどいないのに、なんでこんなものを買ってきたのか。それは、この珍妙な形をしたマウスの実際の使い勝手をぜひとも身体で感じてみたいと思ったからに他なりません。同時に発売された士郎正宗マウスの方は割と好評みたいなのに対し、カトキマウスは「イイ!」という感想と「駄目だ!」という感想の両方があったので、どっちを信用すればいいか分からなかったのです。
君子危うきに近寄らず、しかし、虎穴に入らずんば虎児を得ず。悶々として過ごすくらいならはっきり失望したほうがマシってものです。幸い、ソフマップで税込み約2000円(※定価は7000円)というもう額を聞いただけで嫌な臭いがプンプン漂ってくるような破格の値段で入手することができましたので、自分の身を以て疑問を解いていこうと思います。
写真では大きさを掴みにくいと思いますが、実物は、箱状の部分だけ見たらよくある小型マウスとあまり変わりません。こういうサイズのものは掌でがっしりホールドするよりも指先で軽く持つのが疲れない持ち方ですね。 ちなみに、本体の角張った形状から「持つと痛そう」みたいな印象が強いですが、サイズが小さいため、こうやってホールドする分には掌にまったく接触しません。気にならないというかむしろ意味ありません。
使ってみると、意外にも、左右のボタンは非常に押しやすいです。普通の小型マウスでボタンを押すときは「手を軽く握った状態」から「更に握る」ことになるので、力加減が難しい&普通あり得ない操作なので僕は指の筋がつりそうになるのですが、このカトキマウスはボタンが高い位置にあるので、「手を軽く開いた状態」から「握る」という普通のマウスに近い動きになります。ちょうど、普通のマウスから掌に当たる部分をごそっと取り除いたような感じですね。狙ってやったデザインなのか、偶然なのか、ともかくこの点は興味深いです。
ところが、ホイールマウスとして使おうと思ったら、このシンプルなデザインは結構ストレスが溜まります。特にホイールクリックが曲者です。
せめて、ホイールの直径をもう少しだけ大きくするか、幅をもう少しだけ広げてくれれば、男の太い指でも容易に押せるんですが……
また、ボタンを押しやすいかどうか以前に、もっと致命的な問題があります。
二つ目の写真で分かる通り、このマウスのボタンとホイールは前の方にせり出しています。しかもよく見ると、箱形の部分が斜めにカットされているため、ボタンより手前で接地面が終わって、ボタンの真下は空間ができています。左右ボタンは軽く押すだけでよいので問題ないのですが、ホイールボタンは固めなので、力を入れることになります。するとどうなるか…… ……ボタン配置、重量バランス、ホイールボタンのスイッチの固さ、全てが絶妙に作用した結果ですね。ホイールをクリックできず、代わりに本体がつんのめる。まったく洒落になってませんね。僕はオートスクロールやMozillaでのWebブラウズなどでホイールクリックを多用しますので、これでは使い物になりません。
尻が浮いてしまうなら、尻を押さえるように持つしかありません。 ……でもこの体勢は非常に疲れます。というか、手首を甲側に曲げ続けるという不自然な体勢なので、ずっと続けていると手首が痛くなってきます。また、手が小さい人(子供や女性など)は、どうしてもこの持ち方しかできないでしょう。これはもう悲劇です!(大袈裟)
結局、手首を楽にしたらマウスの尻が浮いて、マウスの尻を押さえたら手首が痛くなって、という具合ににっちもさっちもいかなくなってしまいました。これでは使用をやめるしかありません。
コレクターと、ホイールを使わない人以外は、このマウスを買ってはいけない。
カトキマウスは使えねー、という結論が出たところで、何が駄目なのかという点を整理してみましょう。
要はこの2点が使い勝手を壊滅的に悪くしているわけです。つまり、これさえ改善しさえすれば使い物になるということですね。せっかく買ったんだから、捨てたり部品取りにしたりってのはちょっと勿体ないです。鳴かぬなら鳴かせてみしょうホトトギス
の精神で、ムリヤリ実用的にしてみたいと思います。
なお、改造は保証の対象外ですので、自己責任で行って下さい。
ホイールを少しだけ飛び出させれば、スクロールもクリックもやりやすくなるはずです。というわけで、まずはそこから挑戦してみましょう。
ホイールの高さを決めているのは、ホイールの回転を検知するセンサーの位置です。カバーを開けてホイール部分の基盤を裏返してみましょう。 この4点のハンダを溶かしつつセンサーの足を押し込んでいけば、反対側にあるセンサー本体が押し出されて、ホイールの位置が上がります。僕の場合、どうにか約1mm押し込むことができました。(クリックを検知するスイッチはどうせ1mmも沈まないので、このくらいで十分です)
センサーを浮かせると、ホイールの軸も当然上がります。ホイールの軸の反対側はクリックを検知するスイッチを押すようになっていますので、このままではクリックしても軸がスイッチに届きません。なので、スイッチと軸の間に適当な板状の物を挟んで、軸の動きがスイッチに伝わるようにします。 挟んだ板はズレないように固定しておきましょう。スイッチに接着剤で貼り付けるか、板の端をテープでとめるかといったところでしょうか。
ホイールをクリックしようとしたら尻が上がる、という問題はどうすれば解消できるでしょうか。人間でいえば足を前に踏み出すように、ここはマウスの底面を広げるのが正攻法ですが、そういう改造は難しいです。簡単なのは、マウスの尻の方に重りを入れて、ちょっとやそっとでは浮かないようにしてしまう方法でしょう。
僕の場合、手元にあった木ネジ3本、計15gを入れました。これでもちょっと尻が浮きますが、押さえつけなくてもクリックは可能になりました。
マウスが重くなるので持ち運び用に使うのはためらわれるかもしれませんが、ともかく、これでようやく「指先で軽く持って使える」マウスになってくれます。
改造してみて分かったけど、この形というのは結構、悪くないように思えます。普通のマウスと同じ感覚(指使い)で操作できるのに、普通のマウスと違って掌に何も当たらないから、手と指先そのものでコンピュータを扱ってるような錯覚に陥る。なんかSFチックでかっこいいかも。笑。